●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.209 ●▲■
発行日:2015年7月1日(水)
■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■

発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com

 

------------------< 目 次 >------------------

 

●▲■ サケwatching in香港 その2 ●▲■

  ●■「酒税をなくす」という奇策
●■「酒税撤廃で、ワイン輸入は10倍」(香港の実績)
●■「酒税撤廃で、日本酒消費は57%増」(香港の実績)
●■「日本で酒税撤廃すれば、酒類消費は15%増程度」(理論&推測)

                          text = 喜多常夫

 

ご紹介情報●1▲ 外国人+日本人聞いた「書道ラベル」のイメージ調査
ご紹介情報●2▲ 発泡清酒・発泡リキュール(和酒)の製造技術
ご紹介情報●3▲ パッケージ・デザイン・アーカイブ

 

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今日、7月1日は、
香港の返還18年目の記念日である。

 

香港は、、、
74年前の1941年、英国軍を放逐し日本が占領。
70年前の1945年、日本の敗戦で英国植民地に戻る。
18年前の1997年、英国から中国に返還。

 

言論の自由が確保され、
経済的繁栄を謳歌している現状を見れば、
中国への帰属は正しい選択だったのだと思う。
香港経済は中国の急速な経済成長に依存した部分も多いはずだ。

しかし、政治的・制度的には、
親中国派と民主派の対立や、学生のデモが報道される。

今後の香港の繁栄如何は、
中国の政策方針が重要な鍵になるのだろう。

 

 

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さて、前号メルマガでは、

 「<一人当たり日本酒消費量世界一>は香港」
「香港のSAKEバーで美味しいサケを堪能」
「スーパーやデパートの日本酒売り場の充実ぶり」

そして、

 「キリンやアサヒの350ml缶ビールがHK$10(=170円)くらい、
日本の缶ビールは、日本より香港が安い」

などを書いた。

日本では350ml缶に、
「酒税77円」+「消費税8%」がかかるが、
香港では「税金0円」なので輸送費を払っても安くなる。

5月に香港に行ったときツーリストとして換金したレートが
HK$1=17円くらいだったが、2012年頃のレートは
HK$1=10円だった。
当時はさらに安かったろうと思う。

 

で、今回は、香港のお酒の税金の話。

 

 

 

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  ●▲■香港がお酒の税金を廃止した理由→「ワイン」
その効果→「ワイン輸入金額は10倍」

 

香港の酒類の物品税は、
2006年までは「ワイン80%・ビール40%」だったが、
2007年2月に「ワイン40%・ビール20%」に、そして、
2008年2月に「ワイン0%・ビール0%」になった。

 

香港は自由貿易港なので輸入時の関税もないから、今や完全無税。
より正確には以下。

 

  ●「アルコール度数30%未満の酒類」は、無税
製造、保存、運搬に関わるライセンスや許可制度も同時期に廃止

  ●「30%超えの酒類」は、物品税100%(ただし再輸出品は免除)
貿易や製造、保存、運搬にはライセンスや許可が必要

 

わずか2年で無税、かつライセンスも不要にしてしまう大胆な政策。

日本の清酒や焼酎はアルコール度数30%未満なので、
香港向け輸出は大いに恩恵をこうむっているが、
香港の狙いは「ワイン」。

 

いくつかのネット情報をつなぎ合わせると、こんな事情。

 

        酒税撤廃の狙いは消費拡大ではない。
今後、ワイン消費が増加するアジアで、
「ワインの保管・売買のハブ」を目指したもの。

        ワインは生産地、保管・売買場所、買い手が離れているケースが多い。
フランスワインが、ロンドンやNYで保管・売買され、最終買い手に渡る。
ロンドン・NYに移動するときに英国・米国の税金がかかり、
買い手国に移動するときもう一度課税される。

        保管・売買場所=ワイン・ハブに関税や酒税がなければ、
課税は最終買い手国の一度ですむ。
香港はそれを狙った。

        2008年の酒税撤廃時点の想定では
「短期的には年0.8億米ドルの税収減となるが、
オークション、再輸出、倉庫業、入国者増などで、
5年で年1.3億米ドル以上、
10年後に年3.8億米ドル以上の税収増」
を見込んだ。

 

        実際、ワイン輸入額は、
2006年に9億HK$だったものが、酒税撤廃後は毎年二桁増で
2011年に98億HK$を記録、
2012・13・14年は落ち着いたが80億HK$以上を継続。
すなわち、
「酒税撤廃でワイン輸入金額はほぼ10倍」となった。

        香港は、ワインオークション取引額で、
2010年以降、ニューヨークを抜いて世界一になっている。

 

「酒税撤廃でワイン輸入金額はほぼ10倍」といっても、
香港市民がワインを10倍飲むようになったわけではない。

確かに市民のワイン消費・ワイン単価も大幅に上がったそうだが、
ワインハブとしての売買や、
再輸出(中国向けだけでなく世界中に)が10倍の原動力である。

また、将来需要のためにストックされるワインも多い。
香港政府は2010年から、ワインをストックする業者に対して、
保管や管理の政府保証システムを創設して後押ししている。

 

 

「酒税撤廃」という奇策、
メインランド・チャイナの共産主義官僚が考えたしたたかな業か、
それとも香港の民主派行政官吏の慧眼(けいがん)の戦略か。

先進資本主義国では
国家税収に占める酒税の重要性は薄れている。
とはいえ、
健康のために酒類消費を減らそうと増税や規制の流れはあっても、
酒税撤廃など、トンデモナイ!、だろう。

ただ、香港では大成功の政策であった。

 

そういえば香港で販売されるお酒には、
運転、健康、妊婦などに関する警告文がないものが多く、
表示は義務ではないようだ。
酒類需要を後押しする意図かどうかは知らないが、
この点は、やや時代に遅れているとは思う。

 

 

 

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  ●▲■酒税をなくしたら
→「日本酒消費は57%増」(香港の実績)

 

香港が酒税をなくしたのはワインが主目的だが、
恩恵をこうむった日本酒を分析してみよう。

 

香港がお酒の関税をなくしたのが2008年2月。
その前後で香港向けの日本酒の輸出量がどう変化したのか
日本の財務省貿易統計から書き出してみると以下の如し。

        2001年:        5,100石
2002年:        4,700石
2003年:        5,700石
2004年:        5,500石
2005年:        5,300石
2006年:        4,900石
2007年:        5,600石
→お酒に税金があった時代、
2001年から2007年までの7年の平均:5,300石

 

        2008年:        6,700石
2009年:        7,300石
2010年:        8,000石
2011年:        9,200石
2012年:        8,300石
2013年:        9,500石
2014年:        9,000石
→お酒に税金がなくなった、
2008年から2014年までの7年の平均:8,300石

 

5,300石から8,300石に57%増である。

日本酒は、ワインと違って、
オークションで売買されるわけではないし、
将来のためにストックされるわけでもない。

香港の酒類業界の方に聞けば、
この数年で日本レストランがずいぶん増えて、
実感として日本酒はよく飲まれるようになったし、
中国向け再輸出とハンドキャリーは減少気味だそうだ。

つまり、57%は概ね実需の伸びと考えていいだろう。

 

57%増は、

       「日本レストラン・日本食品ブーム」
「食・ライフスタイルの多様化」
「香港経済の好調ぶり」

などなど、税金以外の要素もあるが、

       「税金がなくなったことの効果」

が一番インパクトがあったのは間違いない。

 

なお、既述の通り、
酒税撤廃で香港のワイン輸入金額はほぼ10倍となったが、
香港市民の一人当たりのワイン実需の伸びは、
感覚的にはせいぜい1.5倍(50%増)程度ではないかと思う。

先進国では税金をなくした時の効果は
その程度だろう。

国の成熟度や経済状況によっては、
次に述べるように、さらに低いはずだ。

 

 

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  ●▲■日本で酒税をなくしたら
→「酒類消費は15%増程度では」(理論編)

 

「税金をなくしたらどれだけ消費が増えるか」については
いろいろな研究論文があるのだろうだけれど、
書架の本にあった事例を紹介します。

 

「酒の文明学」(サントリー不易流行研究所、1999年刊)に、
宮本又郎氏(かつて大阪大学教授、講義を聞いたことがある)が
「酒と経済」という一文を寄稿されていて
「酒税がなくなった場合の経済効果」を試算しています。

 

ちょっと堅い話になるが、要点を書くと・・・・・

  「所得(個人消費)が増えれば酒消費が増え、
酒価格が下がれば酒消費が増える」
という近代経済学の基本原則に酒も従うと仮定し

  「酒消費量=αx個人消費+βx酒価格+定数」
α:消費弾性値=消費支出が1%増加したとき酒消費が何%増加するか
β:酒価弾性値=酒価格が1%上昇したとき酒消費が何%下落するか

  という数式を想定して、
1世紀分の酒消費量、個人消費、酒価格の数字をこの計算式に入れて
統計処理(最小二乗法)でαとβを算出。

  さらにその算式に酒税がない場合の酒価格を代入して
「酒税がなかったらどのくらい酒消費が増えたか」を試算すると、、、

 

              ●1950年: 1.72倍に増加
●1960年: 1.54倍に増加
●1970年: 1.38倍に増加
●1992年: 1.34倍に増加

 

すなわち、
戦後すぐの1950年にもし酒税をなくしていたら、
日本の酒類消費量は72%も増えたろうが、
生活が豊かになった1992年に酒税をなくしても、
増えるのは34%でしかない。

 

「戦後から1973年まで」は
この数式で非常に良く説明できるそうだが、
「1974年から1992年」はβ(酒価格依存度)の数字がマイナスになり、
「酒価格が下がっても単純に酒消費量は増えない」
という分析結果だそうである。

 

この本が上梓されたのが1999年で、
その後の分析数字はないが、
現代は酒価格依存率はもっと低下しているだろう。

 

個人的な感覚で言えば、
2015年の今、日本で酒税をなくしたら
「酒類消費は15%増くらいではないか」と思う。
(もちろん第三のビールが本物のビールに移るといった
シフトはあるだろうが、酒類全体としてはその程度と推測。)

 

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酒税をなくせば消費は増えるのは事実だが、
経済的・文化的成熟に伴って、増加度合いは逓減する。

いや、むしろ、、、

「価格を下げれば、中期的には量が減る(他の酒類に逃げてしまう)」
のが日本の経験であることを、再認識すべきだと思う。

 

以下は個人的な見方で、反論もあるとは思うが、

  ▲ウイスキーが1980年代に量のピークを記録したあと、、
90年代、2000年代と大きく減少したのは、
税制変更で価格が大幅に下がったからだと思う。

  ▲日本酒が1970年代に量のピークを記録したあと、、
80年代、90年代、2000年代、2010年代と減少し続けているのは、
減少対策で安い紙パック製品を拡販し、
いまやそれが清酒の過半になったためだと思う。

  ▲ビールが1990年代に量のピークを記録したあと、、
2000年代、2010年代と減少し続けているのは、
減少対策で安い発泡酒や第三のビールを開発し、
いまやそれがビール類の過半になったためだと思う。

 

経済的成熟に伴って、

        「安くすれば売れる、減税すれば売れる」

という構図は崩れていき、
少なくとも消費者レベルでは、

        「量を減らし、プレミアムなものを嗜好する」

という方向になるのだろう。

 

 

 

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前回も紹介しましたが、香港の写真レポートは下記。

 

   ●▲■ アーカイブ資料 ●▲■

「サケ、日本ビール、日本ウイスキーwatching in香港」(7ページ)
http://www.kitasangyo.com/Archive/Data/sake_hongkong_2015.pdf

 

2回のメルマガで書かなかった、

  「ビール・日本酒のラベル表示観察」
(日本酒のほとんどは日本ラベルのまま。
表示は日本語だけで、中国語や英語はない。
日本のままのほうが信用されるのだそう!)

  「本坊酒造と江井ヶ島酒造の日本ウイスキー、
メルシャンの日本ワイン」

  「関空でインバウンド需要対応のパッケージ観察」

などの写真もあります。

 

 

                 text = 喜多常夫

 

 

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さて、情報紹介です。

 

●▲■ ご紹介情報 その1:「酒うつわ研究」バックナンバー ●▲■

外国人+日本人205人に聞いた「書道ラベル」のイメージ調査
http://www.kitasangyo.com/Archive/SUR/sienna_pdf/SUR_1505_SW.pdf

 

海外に輸出される、清酒、焼酎、ウイスキーには
書道のラベルが多い。

最近、日本ワイン、クラフトビールにも
書道ラベルを取り入れる事例が散見されます。

FOODEX2015で来場者に聞いたアンケートです。

過去には、「デザイン」や「色」についても、
外国人と日本人に調査しています。

http://www.kitasangyo.com/Archive/SUR/sienna_pdf/SUR_1407_SW.pdf
http://www.kitasangyo.com/Archive/SUR/sienna_pdf/SUR_1311_SW.pdf

 

 

 

 

●▲■ ご紹介情報 その2:ガス関連情報 ●▲■

発泡清酒・発泡リキュール(和酒)の製造技術(びん内二次醗酵編)
http://www.kitasangyo.com/e-Academy/Gas/data/SURSparkSakeBFmethod.pdf

発泡清酒・発泡リキュール(和酒)の製造技術(高ガス含有編)
http://www.kitasangyo.com/e-Academy/Gas/data/sparksake_hico2.pdf

 

スパークリング清酒やリキュールの事ならご照会ください。

 

 

 

●▲■ ご紹介情報 その3:デザイン・アーカイブ ●▲■

「パッケージ・デザイン・アーカイブ」
http://www.kitasangyo.com/Archive/Package-design-archive.html

 

当社がかかわった、
日本酒、本格焼酎、ワイン、クラフトビールなどの
パッケージデザイン事例。

お酒のパッケージは、
きた産業にお任せください。

 

 

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●▲■バックナンバー閲覧可能!「メルマガ・クロニクル」

http://www.kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html

2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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●▲■ブログもやってます!「スローなブログ」

http://blog.goo.ne.jp/kita-slow_blog/

2006年4月の以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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